概要
朝倉彫塑館は台東区谷中にある彫刻家 朝倉文夫(1883-1964)のアトリエ兼住居。鉄筋コンクリート造のアトリエと木造数寄屋造の自宅から成る延べ床面積1,085.02㎡(約328坪)の建物である。
朝倉文夫
朝倉文夫は明治から昭和にかけて活躍した日本の彫刻家である。明治16年に大分県大野郡上井田村(現豊後大野市朝地町)に生まれ、明治36年に東京美術学校(現・東京芸術大学)彫刻選科に入学。在学中に1200体以上の作品を制作し、明治40年に卒業。卒業後は第2回文展で2等賞、第3回文展で3等賞、第4回文展で2等賞(その後も複数回入賞)などの活躍を経て近代日本彫刻の一角を担う。また、朝倉文夫の長女(朝倉摂)は画家、次女(朝倉響子)は彫刻家として活動した。
アトリエ棟
アトリエは彫刻製作を効率的に行うための昇降機を備えるために鉄筋コンクリート造となっており、現在は大小様々な彫刻作品が展示されている。天上の高さが8.5mあり、自然光を取り入れるための窓が複数あることから、開放的な空間で自然光のもと作品を鑑賞できる。現在アトリエ棟には高さ378.5cmの巨大な「小村寿太郎像」や第4回文展の入賞作品である「墓守」など、朝倉の代表作品が展示されている。
朝倉文夫と猫
朝倉文夫は「東洋蘭の育て方」という書籍を出版するほど蘭の裁判に情熱を注いだ。住居や中庭の造り、彫刻作品からも分かる通り朝倉は動植物などの自然を愛し、朝倉彫塑館には「蘭の間」と呼ばれる蘭栽培に用いた温室や園芸実習などに利用した屋上庭園が備え付けられている。そして中でも朝倉は猫をこよなく愛し、多い時には自宅で10匹以上の猫を飼育し、生涯で多くの猫の彫刻を制作した。現在でも朝倉彫塑館では猫を中心とした動物の彫刻作品や屋上庭園、蘭鉢、中庭などから自然を愛し自然と共に暮らした朝倉の哲学を感じ取ることができる。
住居棟と五典の池
アトリエ棟は書斎を通じて住居棟に繋がっており、住居棟にも朝倉の彫刻作品や浅倉が収集した美術品が展示されている。特に浅倉彫塑館では、数奇屋造の建物を生かした作品の展示を行なっており、通常の美術館施設(いわゆるホワイト・キューブ)では難しい生きた作品展示となっている。一部の展示品には作品保護のクリアケースなどが利用されているものの、床の間に掛け軸や香炉が展示され、和室の飾り棚に壺や彫刻作品が展示されている様子はまさに浅倉の美意識を感じさせる展示となっている。
そして、浅倉彫塑館の最大の魅力はアトリエ棟と住居棟に囲まれた「五典の池」と呼ばれる中庭にある。名称の通り中庭の大部分は池になっており、そのほかに五つの巨石、樹木、飛石、等で構成されている。アトリエ棟や廊下、住居棟の各部屋など建物全体から臨むことができる中庭は見る場所によって異なる表情を見せてくれる。中庭に備え付けられた縁側に出ることができないのは残念な点ではあるが、各部屋の畳に座り解放された窓から眺める庭は格別で気がつけば時間が過ぎてしまう。
朝倉彫塑館について
東京都台東区谷中7-18-10